悲嘆(グリーフ)の支援


支援する方へ

1.悲嘆の支援

 

死別直後は、ご遺族は非常に強い悲嘆反応を示し、とても心配に見えるかもしれません。しかし、悲嘆反応の大部分は、時間の経過とともに減弱していきます。支援を始める前に、このウェブサイトの「悲嘆(グリーフ)とは」のコーナーをご一読下さい。あらかじめ、死別後の悲嘆反応について、支援者が理解を深めておくことは、それを知らずに支援を始めるよりも、ずっと支援を容易にします。

 

悲嘆(グリーフ)の支援には、悲しみの感じ方やその後のプロセスが人それぞれであるように、決まったやり方というものはありません。また、愛する人を亡くした悲しみは、強さや形を変えながらずっと続くものであり、それを完全に消し去ることが目標ではありません。悲しみを持ちながらも、かけがえのない人との記憶とともに、新しい生活を歩むことを支援します。

 

 

ご遺族のニーズや、その人なりの回復のペースや対処方法に合わせながら、必要とされる支援を提供し、負担のない形でそっとそばで見守りましょう。支援者がご遺族にとって安心できる人であることが、とても大切なことです。

 

 

2.支援を始める前に

 

一般に、「死」や「死別」は忌むべきものとして捉えられ、人々は「死別神話」と呼ばれる死に対する誤った考え方や信念を持ちやすいと言われています。以下のことは、死別神話の代表的なものです。支援を始める前に、少し心にとめておきましょう。

 

時間が経てば悲しみは癒される

(真実)時間は大きな助けになりますが、愛する人を失った悲しみは一生消えるものではありません。

 

喪失について考えないようにするほど、苦しみは少ない

(真実)悲しみ、嘆き、なくなった人を思うことは全く正常な反応であり、苦しい期間を経て、人は悲しみから回復していきます。

 

死別に触れないほうが、ご遺族の助けになる

(真実)過度に踏み込むことは避けるべきですが、悲しみを表現したり、話したりする場があることは、通常、大きな助けになることが多いものです。

 

泣いたり、自分の思いを多く話す人は、感情を表出しない人よりも苦しんでいる

(真実)表出された悲嘆が、心の内面の悲しみを反映しているとは限りません。特に男性や子どもの場合、表出される悲嘆と実際の悲嘆は、しばしば異なることがあります。

 

子どもは大人ほど死別の悲しみは深くないし、たとえ悲しんだとしても短い期間で乗り越える

(真実)すべての子どもは嘆き悲しみますが、それを大人と違った形でしか表現できません。子どもは大人に比べ、死を理解しにくかったり、感情を表現する力が未熟であるため、しばしば大人以上に傷つき、正しい情報を得られないなどの不利益を被ることがあります。

 

3.支援を行う際のポイント

 

ご遺族の支援へのニーズは人それぞれですが、実際に行うにあたっては、以下のようなことを押さえておきましょう。

 

1)死別直後の苦痛に対して「こんな思いをしているのは自分だけだろうか」「こんなに立ち直れないのはおかしいのだろうか」と思うご遺族は多いものです。死別後にコントロールできないほどのさまざまな感情が生じたり、体の不調が続くことは、全く自然な反応であり、涙が流れる時にはそれで構わない、ということを、支援者自身がまず知っておきましょう。

 

2)ご遺族の悲しみの症状や置かれている状況、死別による影響、その対処の方法は非常に個人差があります。典型的な悲嘆反応を支援者が理解しておくことは大切ですが、それに当てはめてその人の思いや悲嘆反応を解釈したり、対処方法を安易にアドバイスしたりすることは、かえって害になることも多いので注意しましょう。ご遺族自身がどのように死別を受けとめているか、喪失の意味をどのように見出そうとしているかを尊重することが大切です。

 

3)朝に起き、着替え、三度の食事をとること、あるいは住む家や仕事の環境が整うことなど、日常生活が普通に送れるように支援することは、非常に重要です。また、供養の儀式やお墓をどうするか、親のいない間に子どもを誰に預けるか、といった現実的な問題を話し合うことも、とても大切な支援です。もし生活上で支援できそうなことがあれば、最初にその人に何をしてほしいかを尋ねると良いでしょう。たとえその支援が物質的な支援であったとしても、それは心のケアにつながっています。

 

4)大切な人を亡くしたあとは、ご遺族は心のよりどころを失っています。そのような時に「頑張って」という言葉が負担になることがある、ということを覚えておきましょう。また、ご遺族の中には、通院やお薬が必要な方もいます。「本人の精神力で乗り越える」という考えは、不適切であることも多いので注意しましょう。

 

5)もしご遺族と良好な信頼関係を築けていれば、支援者から次のような情報提供を行うことが良いこともあります。

  • 悲しみが和らぐ期間は個人差があり、自分のペースで回復していけば良いこと
  • まずは十分な睡眠と三度の食事を確保し、日常生活を整えていくようにすること
  • 自分の気持ちや体験したことを信頼できる人に話してみるほうが、心に閉じ込めてしまうよりも適切であること
  • 命日や故人の誕生日、結婚記念日や思い出の日は、数年経っても気持ちが引き戻されてつらくなること
  • 困った時には専門家に相談することも一つの有効な手段であること

 

 

※Burnell GM, Burnell AL [著]、長谷川浩・川野雅資 [訳] (1994) :『死別の悲しみの臨床』医学書院

瀬藤乃理子・村上典子 (2011) :『外傷的な死別後の遺族のケア – 喪失とトラウマの理解』

(飛鳥井望 [編集] :『最新医学別冊 心的外傷後ストレス障害(PTSD)』最新医学社)

などを参照