行方不明者の家族の方へ


大切な人をなくされた方へ

東日本大震災では、津波によって、愛する人が行方不明になった方が数多くいらっしゃいました。大切な方の存在が確認できないことは、ご家族や友人にとって非常に大きなストレスになります。その方の事をいつも考えて不安になったり、亡くなっているのではないかと気持ちが沈んだり、時には生きているはずだと思ったり、とても不安定な状態になります。また,こういう気持ちが周囲に理解されないために,「忘れなさい」、「あきらめなさい」というような言い方をされて深く傷つくこともあります。

 

このような行方不明者の家族の状況は、「あいまいな喪失(ambiguous loss)」と呼ばれています。アメリカのミネソタ大学のPauline Boss博士が提唱した考え方です。

 

あいまいな喪失には2つのタイプがあります。一つは,行方不明のように、実際にいなくっているのに,その生死が確認出来ないような状態です。もう一つは、存在しているのに、今までと大きく変わってしまったことで心理的には喪失しているような状態です。

 

災害で大切な方の生死が確認できない状態は、①に該当します。また、東日本大震災の福島で起こった状況のように、故郷が存在するにもかかわらず、その町がすっかり変わってしまった状態は②に該当します。

 

あいまいな喪失には、答えがありません。誰もその方が生きているのか亡くなっているのか正しい答えを出す事が出来ません。そのような状態では、家族はその方を待ち続けるほうが良いのか、もうあきらめてしまったほうが良いのかがわからなくなります。これはとても不安定な状態です。

 

また、家族の中でも、ひとりひとり、その状況のとらえ方や感じ方が異なります。99.9%亡くなっているだろうと思われる場合でも、それが確認できない限り、人々は0.1%に希望を持ち、気持ちに区切りをつけることが難しくなります。また、0.1%にこだわる自分に混乱し、自分がおかしいのではないかと感じることもあります。

 

Boss博士は、このような状態の方にこう勧めています。「どちらかに決める必要はない」と。なぜならば、事実は誰も「わからない」からです。

しかし、「わからない」状態のまま生きていくことは、とても大変なことです。何らかの対処が必要です。

 

今も大切な方の存在がわからず苦しんでいる方は「どちらかに決める」必要はありません。気持ちに区切りをつけようと思うほど、つかなくなります。

 

現実的な問題、たとえば葬儀や死亡届を出すのかといった問題は、家族でよく話し合うことが大切です。そのとき、家族ひとりひとりの思いが異なっても構いません。状況があいまいで不確実なので、出てくる思いや考えも、人によってさまざまなのです。お互いの気持ちに耳を傾けながら、どうすれば良いかを家族みんなで模索することが大切です。

 

家族で、今いないその方とのつながりを感じられるようなことをすることも大切です。例えば,その方のことを家族で話したり、写真を飾ったり,その方の好きな花を飾ったりすることは,心の中でその方との繋がりを取り戻すために役立ちます。

また、同じ立場にある人や、家族や自分の思いを理解してくれる人に、今の思いを少し話してみることが良いこともあります。

 

あいまいな喪失への対処は、「ひとりひとり考え方が違っても良い」ということから始まります。あなたの周囲の人も、あなた自身も、そのことを認められるようになれば、互いに支え合うことができます。自分の思いが尊重されたと感じた時、人は次の一歩を踏み出せるのです。

 

あいまいな喪失に関しては、「あいまいな喪失情報ウェブサイト http://al.jdgs.jp/ 」を是非お読み下さい。