専門家に求められる力


心のケアの専門家の方へ

災害時やその後の心のケアに関わる専門家は、目の前に展開する多様な現実や対象に心を開いて関わりながら、同時にそれらと向かい合っている自分自身をありのままに見守ることのできる器を培っていくことが求められます。

 

体力的にも心理的にも厳しい状況の中で燃え尽きずに仕事を継続していくためには、優先順位を決めて必要な休息を取ること、すべてを自分一人で抱え込まずにチームとして取り組む姿勢を確立しておくことも必要です。同時に、相手が必要としているものを知り、何をどう提供するのか、どこにどうつなげてゆくのかを見定め続けていく視点を養う必要があります。

 

そのためには、一つの強い思いや考えが湧き上がってきた時、そうしたエネルギーを自覚し、受けとめながら巧みに距離を取り、落ち着いて開かれた心を回復するための自分なりの工夫を身につけておくとよいでしょう。呼吸や足の裏の感覚などを意識してみる、簡単なストレッチをする、歩行の中で全身のバランスを感じてみるなどを身につけることで、短い時間でも気分転換し集中しリラックスすることが可能です。

 

相手のためになりたいという利他の心や思いやりを最もよく生かすためには、まずは自らをケアし整えておくことが大切になります。共感しつつも自他の違いを自覚していられること、不確実性の波にもまれながらも今ここにとどまり安らげること、専門的な知識や技術を持ちながらも初心者としての素直さや謙虚さを持ち続けられること、より良いものを目指しながらも完璧ではありえない自分を受け容れていくことなど、それらを心がけることが人間としての器を培ってくれます。そしてその器の中で、いろいろな出会いがお互いの成長へと導いてくれるのです。