トラウマと喪失


悲嘆(グリーフ)とは

災害に巻き込まれることは、強い恐怖感を伴うトラウマ体験(心的外傷体験)になることがあります。また、災害によって大切な人を亡くすということは、大きな喪失体験でもあります。災害で大切な人を亡くしたとき、トラウマ体験と喪失体験の両方が同時に起こり、遺された人たちに、混乱と強い苦痛を引き起こします。

 

これらの反応は、災害後、さまざまな形で出現します。思い出される記憶や感情は、全くコントロールできないほど脅威的で、気がおかしくなってしまったかのように感じることもあれば、現実感がなく、涙も出ないこともあります。

 

また、その人が亡くなるという出来事(トラウマ)は、ご遺族にとって忘れてしまいたい、心から排除してしまいたい記憶である一方で、亡くした人(喪失の対象)は決して忘れたくない、かけがえのない存在です。その両者の矛盾を抱えながら心に整理をつけていくことは、特に大変なプロセスです。その人を思い出す時の苦痛が和らぐには、時間も必要です。

 

しかし、多くの人たちは時間の経過とともに、亡くなった人とは「ずっとつながっている」という感覚を次第に持てるようになり、苦痛も少しずつ減少していきます。死別直後は苦しみが永遠に続くようにも感じることがありますが、誰にも自分の悲しみを癒す力が備わっています。多くの場合、自分ではコントロールできないほどの出来事が起こったとしても、人は再び新しい人生を歩むことが、少しずつできるようになります。

 

その日が来るまで、ご遺族は自分を責めずに、自分に対して優しい気持ちをもつことが大切です。また、周囲の人たちも、その方の回復のペースに合わせて、苦痛のときもそっと寄り添うことが大切です。